専門家による貧血コラム

貧血の知識と対策(5) -鉄欠乏性貧血の治療-

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貧血の治療方法

女性に多い鉄欠乏性貧血では、鉄分が主成分の錠剤やシロップによって、鉄分を十分に補って治療をします。どのぐらいの鉄分が治療に必要かというと、「1日に鉄(Fe)として100~200mg」とされています。1日当たりの食事に含まれる鉄分量が10mg程度ですから、これと比べると10倍以上です。この数字だけをみると、治療に用いる鉄剤(鉄分)は思いのほか多いなぁという印象を受けるかもしれません。

これはいわば鉄分の貯金である、貯蔵鉄(フェリチン)も補うためです。
鉄乏性貧血では、治療を開始して約2~3週間すると、ヘモグロビン濃度は徐々に上昇します。この時に血液検査を行うと、見かけ上は貧血が治ったように見えることもありますが、短期間で服用を中止すると貧血が再発してしまいます。このため、貧血が改善してからも数か月間、血液検査でフェリチンの量を確認しながら治療を続ける必要があります。反対に、漫然と鉄剤だけを飲み続けてしまい、鉄が過剰な状態になってしまってはいけませんから、「お薬だけの受診」は厳禁です。

なお、鉄剤はビタミンCと併用することで、その吸収率が高まり、副作用も軽減することが期待されます。この他、貧血に関連した栄養素には次のようなものがあります。それらを豊富に含んだ食品の例を挙げてみますので、献立を考えてみましょう。

鉄……ほうれん草、パセリ、納豆、マグロ、寒天、プルーンなど
ビタミンC……レモン、かんきつ類、お茶(煎茶)など
ビタミンB6……マグロの赤身、牛レバー、にんにくなど
ビタミンB12……さけ(魚のシロザケ)
葉酸……アスパラガス、お茶(煎茶)

その他、鉄剤の副作用として便の色が黒く見えることもありますが、一時的なものです。抗菌薬(抗生物質)や制酸剤(胃薬)など、鉄剤の吸収を妨げる薬品もありますので、服用する際には飲み合わせにも注意しましょう(副作用軽減のために胃薬を用いることはありますので、治療にあたっては担当医と相談してください)。

お茶は飲んでもかまいません

タンニン酸を豊富に含む食品(例:濃い緑茶)と一緒に飲むと、鉄分が反応して吸収しにくくなってしまうことがあります。しかし、次のような理由から、治療の注意として避けるように言われてきたお茶・コーヒーなどは、基本的には飲んでも構わないと考えられるようになりました。

理由(1):鉄欠乏にある状態(特に女性)では、潜在的に体の鉄分吸収能力が高まっている
理由(2):治療に用いる鉄剤の量は、1日に摂取する鉄分の10倍という高用量(成人1日当たりの吸収量は1mg、治療ではその100倍もの鉄剤を用いる)

つまり、タンニン酸によって少しぐらい鉄分の吸収が妨げられたとしても、そのことが貧血の改善度に影響することはない、ということです。鉄剤によっても多少の差異はありますが、基本的には鉄剤と一緒にお茶を飲んだとしても、治療への影響は小さいものと考えられています(実際に、お茶と鉄剤を一緒に飲んでも影響がなかったとするデータもいくつかあります)。リウマチなどの膠原病・感染症・胃切除術後などの合併症がないようであれば、「お茶・コーヒーを飲んではだめ!」というストレスを感じる必要はありません。

注射薬による治療

注射薬で鉄分を補う場合、目標とするヘモグロビン濃度と現在のヘモグロビン濃度の差から、治療全体を通して必要な鉄分の総量を計算します。その上で、初めは鉄分20~40mgの注射、数日単位で増量して(注射の場合には多くとも鉄分100mgまで)、総投与量に到達した時点で注射を終了します。

鉄総投与量(mg)= [2.2×(目標ヘモグロビン濃度(g/dl)-治療前ヘモグロビン濃度(g/dl))+10]×体重(kg)

例:体重が40kg、鉄欠乏性貧血でヘモグロビン濃度7g/dl。鉄剤の内服ができないために、注射薬でひとまず10g/dlまで改善を目指す場合。 → [2.2 ×(10-7)+10]×40 = 664 mg

初日~3日間・・・40mg 3日間の小計120mg
4日目~6日目・・・80mg 3日間で240mg
7日目~9日目・・・100mg 3日間で300mg

注射による鉄剤投与は、内服のできない場合の応急処置と考えても差し支えありません。鉄欠乏性貧血では鉄の投与開始から1週間前後で少しずつヘモグロビンが増加します。注射剤の投与を終了してからは、食事からの鉄分摂取を促すと同時に、内服が可能になるようでしたら内服に切り替えて、前述の鉄の貯金「フェリチン」が蓄えられるまで治療を継続します。

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※上記の専門家コラムに関するご質問、お問合せは、原則受付けておりませんのであらかじめご了承ください。

コラムニスト 吉國友和 (秋穂クリニック)

筆者の写真

貧血の知識や症状をわかりやすく解説します。

内科の他にも呼吸器疾患やアレルギー疾患、ダイエット外来まで幅広い分野を手がけてきました。医学知識を一般の方でもわかりやすく解説できるよう心がけています。貧血は誰にでも起こりうる病気、いざという時に備えて基礎から学びましょう。

【所属】 秋穂クリニック、周南病院、山口県鴻城高等学校衛生看護科(非常勤講師)http://www.geocities.jp/shirokujira0621/
【資格】 医師、感染症制御医(ICD)
【メディア】 「主治医が見つかる診療所」(テレビ東京)、「おもいっきりイイ!! テレビ」(日テレ)の他、ラジオ番組への出演も多数。「オレンジページ」「すてきな奥さん」(主婦と生活社)など多数。

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